2023年10月11日水曜日

井筒俊彦のプラトン(9)「エロスの道」(4)
































これまで見たように、プラトンのエロスは上昇する性質を持っているが、正しい育て方をしなければ上昇することのない迷妄のエロスとなる

饗宴』に出てくるディオティマによれば、正しいエロスの育て方と向上の道程は四段階から成っている

第1段階は肉体愛に属する最下層で、その中にはいくつかの段階がある

最初は1つの美しき肉体にエロスを抱くが、やがて同様の美は他の肉体にも宿っていることに気づき、それはすべての美しき肉体に対する、普遍的な肉体美への愛に転成する

第2段階に入ると、普遍的な肉体美よりも精神美が遥かに尊く価値あることを自覚するようになる

これがさらに進むと、社会的事業や法律のようなものの中にも美が存在することに気づくようになる

第3段階では、美しき肉体、美しき精神、社会的事業、制度などの特殊個別的な美に執着するのを止め、美の大海を眼下に俯瞰しつつ、無数の見事な思想を生み出す

何ものにも隷属することのない卓立無依の自由人になるのである

そして、美の観照に沈潜して瞑想の深底を究めるうちにその精神は著しく力を増し、遂に絶対美の認識にまで飛躍転成を敢行する

その結果到達するのが第4段階で、それは愛の道の最高究極の境地、奥儀になる

この段階に近づく時、驚くほど異様に美しきものを目にすることになるという

それが求めていた絶対美そのものなのである

それは第一に、永劫常在であり、不生、不滅で、減少も増大もない

第二に、条件によって醜となるような相対的な美でもない

第三に、肉体の部分として顕現することも、特殊な言説や認識の下に現れることも、如何なる形姿をとって顕現することもない

それは、深く寂とした、ひとつ抜きん出た久遠の実在である 

このエロスの秘奥に参入する多幸な人は、真の実在としての徳を産出することができ、人間として限りなく不死の人となり得る

つまり、神の伴侶となることが可能になるのである

そして、人生が生きるに値するものであるとすれば、この境地にまで進むことをもってその理由となるであろう


プラトンの愛の上昇道程は、美しき肉体から美しき精神へ、美しき精神から美しき事業、美しき知識へ、そして最後に美しき知識から絶対超越的美の本体へと進むものであった

そこには峻険な自己超克が含まれていることを忘れてはならないだろう











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