フランス語の翻訳を始めたのは今から10年ほど前になる
著者から依頼された免疫学に関する本であった
この本は2年後の2018年にみすず書房から刊行された
その流れで、翌年には微生物学の翻訳も出した
この過程で翻訳についていろいろ考えた
その記録は翻訳ブログとして残っている
その昔、「外国語の本は翻訳した後でなければ理解できない」というような話をどこかで読んだ記憶がある
当時はピンと来なかったが、この間それがよくわかるようになった
そして、翻訳という作業が途轍もない労力を要することも身に染みた
ということもあり、翻訳はもうやらないとどこかで思っていた節がある
それではなぜ、日本では無名の、しかも分野違いと言ってもよい本の翻訳を始めたのか
いろいろな理由が考えられる
一つには、2006年にフランス語で初めて語りかけてきた哲学者の著作だったこと
二つには、科学とは対極にあると思い、哲学に入る前から気になっていた形而上学について理解を深めたいという願望もあった
三つには、最初に出会ったときから、世の中の喧騒には目もくれず、静かに、深く、厳密に考えている姿に感じるものがあったことが挙げられる
そこに、今日の世界に必要なものがあると直観したのだろう
今回の過程を振り返れば、2024年11月から翻訳に着手したが、このような哲学者を受け入れる素地が日本にあるのか、はなはだ疑問であった
昨年1年は出版社を探すことに費やされた
予想通り、前向きに考えてくれるところは皆無であった
しかし、今年に入り、考えましょうと言ってくれる出版社が現れた
知泉書館さんである
1月に面談してから動き始め、二校に至っているというのが現在地である
今回の本は日本で初めて紹介されるコンシュの著作になる
そのため、以下のような工夫をした
読み進む上で参考になると考え、原典にはない道標を加えることにした
具体的には、本文には小見出しを付け、対談が収められた補遺には議論されるテーマを冒頭に掲げた
原典では茫漠とした平原を行くような印象があったのだが、ある範囲に意識を集中しながら読み進むことができるようになったのではないだろうか
改めて読み返してみると、原典とは全く違う本になったように見える
読むたびに印象が変わるので、これからもじっくり読み返したい本になりそうである
先ほど、二校の最後の読みを終え、編集者に送ったところである
今回は初校では感じなかった「終わった」という感覚を持つことができた
読みながら、長い翻訳の過程で迷い、悩み、考えてきたことが、どこからともなく浮かんできて驚いた
それは、2年弱のこの旅を懐かしく味わい直すような無意識の感覚と言ってもよいものであった








