2024年3月21日木曜日

ポパーによる「プラトンの呪縛」(17)自然と協定(6)































プラトン(427-347 BC)にとっての理想国家は、それ自体で十全で完全な個体である

それに対して市民は、個体ではあるが国家の不完全なコピーと見做された

国家が超有機体であるとされ、ここで生物学的、有機体的な国家論が西洋に導入されたとポパー(1902-1994)は見ている

拙著『免疫から哲学としての科学へ』でも取り上げたクロトンのアルクマイオン(5th century BC)の影響を受けたプラトンは、国家の生物学的理論の確立よりは人間個体を政治的に見ようとした

この傾向は個人は国家よりも低次であり、個人は国家の悪しきコピーであるとする考えとも一致する


プラトンは、統一された調和のとれた有機体的国家、つまりより原始的な社会形態を要求していたという

国家は小規模であるべきで、その成長は統一を妨げないという条件付きで認められる

つまり、統一された閉鎖性、国家の個体性をプラトンは強調する

しかし同時に、個人の多様性も強調する

人間の魂は、理性、力、欲望(動物的本能)の3つの部分に分けられる

これは国家における3つの階級――監視者(統治者)、戦士、労働者(ヘラクレイトスが言うところの「野獣の如くその胃袋を満たす者」)――に対応している

人間は見かけは一であるが実際は多であり、完全国家は逆に、見かけは多であるが現実には一である

このように国家や世界の統一と全体性が強調されており、ホーリズム(全体論)に通じるところがある

プラトンにとって、社会変革の中での変化に満ちた生活は現実的には見えず、失われた部族生活の統一に憧れているとポパーは見ている

安定的で永続する全体に奉仕することが個人にとっては「自然」なのである


プラトンは『法律』の中で、次のように書いている
法律には、共同体全体の福祉を実現させるという課題があり、一部には説得によって、また一部には強制によって、市民たちを一致結束させる。また法律は、市民各人を共同体の役に立つよき行為に参加させる。実際、国家に対する正しい心構えを持った人間を作り出すのは法律である。各人がほしいままに行為し生きて行けるようにするためにではなく、彼らすべてを共同体の結束のために利用する。
また、次のような政治的ホーリズムの古典的定式も見られる
君は全体のために生まれたのであって、全体が君のためにではない

プラトンは国家は人間個人、人間の魂になぞらえることができると見做した

そして、国家の病、すなわち国家の統一性の解体には、人間の魂、人間の本性の病が対応することになる 

国家の病は、特に支配階級に属する者たちの邪悪さ、道徳的腐敗から生じるのである









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