2024年2月5日月曜日

ポパーによる「プラトンの呪縛」(3)ヘラクレイトス



























ヘラクレイトスc. 540-c. 480 BCは変化を強調した

そして、すべては炎に等しいとした

土、水、空気などは炎が変性したものであると考えた

それらはものと言うより、プロセスであるとしたのである

その上で、プロセスの中に法則、理性を発見する

この法則は抗いがたいもので、ヘラクレイトスにおいては、法や規範と自然の法則や規則性との区別がされていない

そのため法や規範は、自然法則と同じように批判することは考えにくいことになったのである


無慈悲な宿命というヒストリシズムの考えは、神秘主義と結びついていることが少なくない

ヘラクレイトスの哲学においても、反合理主義と神秘主義が見られる

彼は「自然は自らを隠すことを好む」と言う

また、経験を重んじる探究者たちを軽蔑した

この学問への軽蔑と、知力は直観的であるという神秘主義的な理論を持っていた

ヘラクレイトスの認識論は、我々は互いに理解し合い統制、修正し合う共通の世界に住んでいるということから出発する

しかし、そこには神秘主義的要素が含まれている

このような認識に至るには、神秘的な直観が与えられた選ばれた者である必要があるとしたのである

彼は言う

「人間は寝ているかのように行動したり語ったりしてはならない。・・・目を覚ました者にとってのみ、唯一共通の世界が存在する。・・・寝ている者には、存在すれども存在せずという格言が当て嵌まる」

「普遍的なものに従うべきである。・・・理性は普遍的である・・・万物は一者となり、一者は万物となり・・・唯一知恵である一者は、ゼウスの名をもって呼ばれることを欲しもし、欲しもしない・・・それはあらゆるものを導く雷である」


ヘラクレイトスは、戦いと争いこそあらゆる変化を生み出す動的にして創造的な原理であると明言している

そして、歴史の裁定の内に道徳上の裁きも見る

なぜなら、戦争の結果は常に正しいという考えを持っているからである

彼は言う

「戦いは万物の父であり王である。戦いは一方を主人とし他方を奴隷とすることで、前者が神々で、後者は人間であることを示す。・・・戦しょじるいはあらゆるものに遍在し、権利は争いであり、あらゆるものが争いと必然性にもとづいて生じることを知らねばならない」

もし戦いの結果を常に正しいというのであれば、その基準は変化すると考えられる

この問いに対してヘラクレイトスは、対立するものの同一性を基にした相対主義で対抗する

変化するならば、ある種の属性を放棄して、それとは対立する属性を受け容れなければならないというのである

彼は言う

「冷たいものが温かくなり、温かいものは冷たくなる。湿ったものが乾き、乾いたものが湿る。・・・病は健康を有難くする。・・・生と死、覚醒と熟睡、若年と老年――これらは同じものである。・・・区別されるものが自分自身に一致する。・・・対立物は調和する。調和のないところから最良の調和が生じる。すべては争いから生じる。・・・登り道と下り道は同じである。・・・善と悪とは同一である」


ヒストリシズム的考えは大きな社会的変革の時代に登場することが多い

ギリシアの部族生活が崩壊した時、ユダヤ人の部族生活がバビロニア人によって征服された時に起こった

ヘラクレイトスの哲学は、このような時代の漂流感の表現であるとも言えるだろう

その後、産業革命の時期、アメリカ、フランスにおける革命の時期に新しい息吹が与えられた

そこから近代のヒストリシズムに繋いだのはヘーゲル(1770-1831)だったとポパー(1902-1994)は見ている










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