以下に転載したい
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パリ
私はパリで大人になった。
はじめて異性に触れたのもパリ。
はじめて魂の解放を得たのもパリ。
パリは珍しくもないような顔をして
人類のどんな種族をもうけ入れる。
思考のどんな系譜をも拒まない。
美のどんな異質をも枯らさない。
良も不良も新も旧も低いも高いも、
凡そ人間の範疇にあるものは同居させ、
必然な事物の自浄作用にあとはまかせる。
パリの魅力は人をつかむ。
人はパリで息がつける。
近代はパリで起こり、
美はパリで醇熟し萌芽し、
頭脳の新細胞はパリで生れる。
フランスがフランスを超えて存在する
この底無しの世界の都の一隅にいて、
私は時に国籍を忘れた。
故郷は遠く小さくけちくさく、
うるさい田舎のようだった。
私はパリではじめて彫刻を悟り、
詩の真実に開眼され、
そこの庶民の一人一人に
文化のいわれをみてとった。
悲しい思いで是非もなく、
比べようもなく落差を感じた。
日本の事物国柄の一切を
なつかしみながら否定した。
(「暗愚小伝」 より)
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