2025年7月10日木曜日

高村光太郎の「パリ」


























わたしにとっての2番目のブログになる「パリから観る」に高村光太郎(1883-1956)の詩があった

以下に転載したい



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 パリ


私はパリで大人になった。

はじめて異性に触れたのもパリ。

はじめて魂の解放を得たのもパリ。

パリは珍しくもないような顔をして

人類のどんな種族をもうけ入れる。

思考のどんな系譜をも拒まない。

美のどんな異質をも枯らさない。

良も不良も新も旧も低いも高いも、

凡そ人間の範疇にあるものは同居させ、

必然な事物の自浄作用にあとはまかせる。

パリの魅力は人をつかむ。

人はパリで息がつける。

近代はパリで起こり、

美はパリで醇熟し萌芽し、

頭脳の新細胞はパリで生れる。

フランスがフランスを超えて存在する

この底無しの世界の都の一隅にいて、

私は時に国籍を忘れた。

故郷は遠く小さくけちくさく、

うるさい田舎のようだった。

私はパリではじめて彫刻を悟り、

詩の真実に開眼され、

そこの庶民の一人一人に

文化のいわれをみてとった。

悲しい思いで是非もなく、

比べようもなく落差を感じた。

日本の事物国柄の一切を

なつかしみながら否定した。


(「暗愚小伝」 より)










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